賃貸不動産の個人オーナーで、まだ確定申告を行ったことがない方
はじめに
不動産所得が赤字になった場合、他の所得から赤字分を差し引くことができます(損益通算)。
建物の減価償却費で不動産所得が赤字になり、給与所得と損益通算することで源泉徴収された所得税の還付を受けるケースなどが考えられますが、不動産所得の赤字額は無制限に他の所得と損益通算することができるのでしょうか。
不動産所得に関する赤字の損益通算を制限する規定はいくつかありますが、本投稿では最も一般的な土地等の負債利子に関する制限を解説します。
概要と数値例
不動産所得の損失(赤字)の金額がある場合、必要経費に算入した金額のうち土地・借地権等を取得するために要した負債の利子があるときは、その損失の金額のうち負債の利子に相当する部分の金額はなかったものとみなされます。
計算の数値例は以下のとおりです。
- 【ケース1】土地等の負債利子 > 不動産所得の赤字の金額
収入金額 300万円、必要経費 400万円(うち、土地等の負債利子 150万円)の場合
→ 不動産所得の赤字 300-400=△100
→ 負債利子 150 > 不動産所得の赤字 100
→ この場合、不動産所得の赤字100はすべて負債利子で構成されると考える
→ 損益通算できる赤字額はゼロとなる - 【ケース2】土地等の負債利子 ≦ 不動産所得の赤字の金額
収入金額 300万円、必要経費 400万円(うち、土地等の負債利子 60万円)の場合
→ 不動産所得の赤字 300-400=△100
→ 負債利子 60 ≦ 不動産所得の赤字 100
→ この場合、不動産所得の赤字100のうち60は負債利子に相当する金額
→ 赤字100のうち、負債利子に相当しない金額40が損益通算の対象となる
土地・建物の負債内訳が分からない場合
上記のとおり、土地等の取得に要する負債利子は損益通算が制限される一方で、建物の取得に要する負債利子は損益通算に制限がありません。
では、土地と建物を同一の売主から一括取得した場合、借入金額が土地・建物で分かれておらず、各々の資産に対応する負債の額を区分することが難しい場合はどのように計算するのでしょうか。
この場合は、借入金額を建物に優先的に割り当て、割り当てきれなかった金額を土地の取得に要した負債の額として取り扱うことができます。
【具体例】
・建物の取得価額 3,000万円、土地の取得価額 7,000万円
・当初借入額 8,000万円、自己資金 2,000万円
・負債利子額 200万円
当初借入額 8,000万円のうち3,000万円は建物の取得に要したものとして優先的に割り当てられます。
したがって、土地の取得に要した負債の額は、8,000-3,000=5,000万円となります。
その結果、負債利子額 200万円のうち、土地の取得に要した部分の金額は、
200×5,000/8,000=125万円
となり、この金額の損益通算が制限されます。
建物の取得に優先的に割り当てると、負債利子のうち損益通算が制限される金額を小さくできるため、納税者有利な取り扱いとなっています。
この投稿には、簡潔な説明を行う都合上、厳密性を欠く部分があります。
また、掲載している情報は投稿日時点の法令等に基づくものであり、
最新の税法や個別の状況によっては異なる取り扱いとなる場合があります。
個別具体的な税務判断や申告手続きを行う際は、必ず税理士等の専門家にご相談いただき、
専門家のアドバイスに基づいたご判断をお願いいたします。